「今年の夏は、どこに行きたい?」
すると迷いもなく、「プール行きたい。だって、海こわいんだもん……」と返ってきた息子。
昨年は、何度もレジャープールに通い、波の出るプールや流れるプールではたっぷり遊んでいたけれど、肝心のウォータースライダーは怖がってひとつも滑らなかったのを思い出しました。
「一回だけ、海に行ってみない? パパとママの思い出の海なんだよ」
そんなふうに誘って、私たちの思い出の場所「笹川流れ」へ向かうことに。
この場所には、夫とふたりで農業を始めたばかりの12年前、初めて野菜の出荷が落ち着いたタイミングで訪れた記憶があります。
水面は透明でキラキラと輝き、潮の香りは心の奥まで届いて、火照った体を冷たい海水がゆっくり冷やしてくれた。
あのとき、「やっていけるかな」と毎日張り詰めていた気持ちを、少しだけほどいてくれた海でした。
そしてその日、あの海に、家族三人で出かけました。

懐かしい浜辺に着いてしばらくすると、息子が突然、砂浜を駆け出しました。
「ママ、パパ、見てて! 行くよー!」
そのまま勢いよく海へ飛び込んで、「海、しょっぱ!」と笑う。
こわいって言っていたはずの息子はどこにもいなくて、ただただ夏の海にはしゃぐ姿がそこにありました。
「せっかくの夏休みなんだからさ、もっと楽しもうよ!」
そんなセリフを平然と言うもんだから、大人の私たちはすっかり息切れ。
それでも浮き輪でぷかぷか浮かびながら、ゴーグル越しに小さな魚を見つけてははしゃぐ姿を見て、あぁ来てよかったなと心の底から思いました。

「ママ、ワカメあるよ。一緒に食べよう」
そう言って、波に揺れるワカメを拾ってきて、ぷかぷかと浮かぶ私の背中にそっと乗せてくる。
毎年、私が海藻を見つけるたびに、「ちょっとかたいかもしれないから食べるのはやめよう。でもよく拾ったね」と返していたのを、ちゃんと覚えてくれていたんだなと、少し胸が熱くなりました。
たくさん遊んだあとのお昼ごはんは、朝から握ってきたおにぎりと、久しぶりに揚げたカツ。
そして、前日から息子が楽しみにしていたカップ焼きそば。
「外で食べると、なんか美味しいね」
海の音を聞きながら、にこにこしながら食べる姿を見て、やっぱり日本のおにぎりってすごいなって思った。
三角の形はどこからでも食べやすくて、海苔は中のごはんをしっかり守ってくれていて、日本の知恵が詰まったひとくちです。
それでも私はやっぱり、野菜がたっぷり入ったキンパが恋しくなって、「次は朝から巻こう」と心の中で決めました。

帰り道、息子がぽつりとひと言。
「ここ来るまでも楽しみすぎたんだけど、それよりも楽しすぎた。」
……その言葉を聞いて、「またすぐに来よう」と思いました。
次は、息子のために、野菜の色がきれいに映えるキンパを巻いて。
あなたが笑ってくれる時間を、もっともっと増やしたいから。
\ 台所は、やさしさを取り戻す場所 /
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