
家族の味に宿る、強さとぬくもり
韓国旅、姉がわざわざ息子のためにつくってくれていたひと皿。
それが、鮑粥(あわびがゆ)でした。
細かく切られた鮑が丁寧に火を入れられ、ご飯でとろみのある優しい出汁の中にすっかり馴染んでいました。
ひとくちすくうと、口いっぱいに広がるのは、
静かで、でも確かな旨みと力強さ。
食べ終えたあと、私は久しぶりに「家庭料理って、やっぱりすごい」と小さくため息のような感動をおぼえました。
鮑は、やさしくて強い
鮑という食材は、どこか「特別なもの」というイメージがあるかもしれません。
けれど、韓国ではお祝いの席や、病後の回復食としても使われる、やさしさと滋養を兼ね備えた存在です。
噛みしめるごとに出てくるうま味、じっくり火を入れることで引き出されるとろみ、それを包むごはんのふくらみ。
その全てが、身体をいたわるごちそうでした。
「お粥」という、
もうひとつの家庭料理のかたち
家庭料理というと煮物や炒め物、ごはんと味噌汁。
そんな定番のイメージが強いけれど、お粥にはお粥だけの、家庭のやさしさがあります。
それは、たくさんの調味料や手間ではなく、素材そのものを静かに活かす料理。
しかも、「体調の悪いとき」だけでなく、元気なときこそ食べたい、ご褒美のようなお粥もある。
鮑粥は、まさにそんな存在でした。
家族がつくってくれたという贅沢
この鮑粥は、当時保育園の年長だった、食が細い息子のために姉が作ってくれていたもので、
「あなたはこれを食べな」と、静かに出してくれたものです。
レストランでもなく、料理教室でもない、生活のなかで出てくる料理の美しさを思い出しました。
言葉では「たいしたものじゃないよ」と言いながら、ちゃんと鮑の火入れも、塩気も、お米の炊き具合も絶妙で。
私はただ、器を抱えて黙って食べることしかできませんでした。
旅で出会うのは、風景だけじゃない
今回の旅の記憶を振り返ると、風景よりも印象に残っているのは、この鮑粥の味でした。
それはたぶん、「誰かが自分のためにつくってくれたごはん」だったから。
その思いが、食材の力をより際立たせていたのだと思います。

家庭料理の可能性が
またひとつ広がった
料理はいつも、
「もっと手軽に」
「もっと時短で」
という方向に進んでしまいがちだけど、今回の鮑粥はそれとは真逆の、丁寧さの積み重ねの味でした。
それでいて、どこか肩の力が抜けていて、
「こんなふうに作ればいいんだよ」
と、背中を押してくれる味でもありました。
またひとつ、家庭料理が好きになる。
そんな出会いをくれた鮑粥に、心から感謝しています。