怒ってしまったあとは、
こどもよりも、自分のほうが落ち込んでいることがある。
今回は特に、僕はひどく落ち込んだのだった。

あのとき、あんなふうに言わなくてよかったのに。
もう少しだけ、信じて待ってあげればよかったのに。
何度そう思っても、また怒ってしまう。
これは、そんな「自分を責める夜」の記録です。
そして、次の日の朝に起こった、小さな変化の話。
夜中の2時。
誰もいない二階の部屋で、僕は布団の中にいた。
眠れそうもないことは、布団に入る前から分かっていた。
頭に浮かぶのは、息子のこと、妻のこと、仕事のこと。
でも最後に残ったのは、「もっと息子を自由にしてあげたい」という想いだった。
うちの息子は、「決められたこと」を毎日やるのが苦手だ。
毎日決まった1枚の計算ドリル、
毎日書くその日の日記、
毎日覚えるひとつの言葉─
親としての“しつけ”のつもりだったけれど、
それが息子を追い詰めていたのかもしれない。
深夜の静けさの中で、やっとそれに気づいた。
朝になって、妻とその話をした。
「今日から、息子に“選ばせる”形にしてみたい」
「こっちが決めた宿題じゃなくて、選択肢の中から選んでもらう形にしよう」
妻もうなずいてくれて、今日から息子との関係回復月間のはじまりだ。
朝6時。
いつも通りに息子を起こして、こう話しかけた。
「パパ、話があるんだ」
少しだけ、息子の目が怯えたように僕を見る。
床に並べた本やノートを見せながら、こう伝える。
「この中から、毎日2つだけ好きなものを選んでやってみて。
このほかにやりたいことがあったら、パパとママに言ってね」
選択肢はこうだ。
- 計算ドリル
- 言葉の本
- 韓国語の教科書
- 日記帳
- スケッチブック
- 料理の本
息子が選んだのは──料理だった。
「だって、ママ、料理教室の先生でしょ? 俺も料理したい」
そう言って、今日の宿題は「焼きそば」に決まった。

料理本を開きながら、レシピを一緒に読む。
「キャベツ1枚」
「玉ねぎ1/4」
「【1/4】ってなに?」
「“よんぶんのいち”って言ってね…」
そう教えているうちに、ふと気づいた。
これって、算数もやってるし、国語もやってる。
でも、嫌がってない。
むしろ、楽しんでる。
自分でレシピを読みながら、
野菜を切って、麺を焼いて、調味料を合わせる。
だんだんと、息子の目が「ドヤッ!」という目に変わっていくのが分かる。
表情がどんどん豊かになっていく。
いつもはダラダラして、家の前で迎えに来た友達を待たせてしまう息子が、
今日は自分から時間を気にして、5分前には玄関を出ていた。
「えっ、もうこんな時間?」
こどもの力ってすごい。
親の関わり方次第で、こんなにも朝の空気が変わる。
「早くしなさい!」
「いつまでやってるの!」
そんな言葉から始まっていた朝が、
「すごいじゃん!」
「よくできたね!」
そんな言葉から始まる朝になった。
こんな朝が毎日続くように──
そう思ったとき、まず変わるべきなのは、自分なのかもしれない。