私が子どものころ、田舎の我が家にはまだ冷蔵庫がありませんでした。
大きな壺に井戸水を張り、その中で冷やして食べたきゅうりは、今よりも香りが強く、歯ごたえがあった記憶があります。

そんな季節には、食卓に自然と「オイキムチ(きゅうりキムチ)」が並びました。
たくさん採れたきゅうりを浅漬けにして、ニラや玉ねぎを加えたヤンニョムを詰める。
「作ろう」と決めていたわけではなく、生活の流れの中で当たり前に生まれる味。
漬物は、野菜の美味しい時期を長く楽しむための知恵であり、暮らしの一部だったのです。
夏の始まり、地元のきゅうりが店先に並びはじめると、自然とオイキムチが食べたくなるのは――その頃の記憶が体に刻まれているからかもしれません。
きゅうりを一箱買い、よく洗って切り分け、塩を振る。
切れ目にヤンニョムを詰め込むその作業。

子どものころ両親が義務のように繰り返していた姿を、座って見ていた私。
その作業を今度は、足腰が弱った母が座って私の作業を見る。
そして、今は私が息子の前で、私がこどもの頃と同じようなことを繰り返しています。
親から子へ。
子から孫へ。
そうして自然と受け渡されていく食の記憶。
それを大切にしたいと思う気持ちが、私を料理教室の講師へと導きました。

母から受け継いだキムチを、息子へとつなげたい。
その想いはやがて「もっと多くの人へ」と広がり、
畑で原材料を育て、
キムチを漬け、
キッチンカーで料理を提供するようになりました。
たくさんの方がその料理を喜んでくれ、今度はご家庭でも楽しんで欲しいと思い、料理教室の講師なることを決意したのが、ほんの少し前のことのように感じます。
オイキムチを漬けた後に残る汁もまた、ご馳走です。
茹でた麺にかけるだけで、立派な韓国の家庭料理に。
両親はいまも変わらず、食材を余すことなく大切にしています。
私もまた、そんな「当たり前だったこと」を当たり前にすることで、きっと次の誰かにつながっていくのだと思います。
私にとっては当たり前のことでも、生徒さんにとっては少し勇気のいる挑戦でもあります。
その第一歩を歩むためにそっと背中を押してあげる。
そんな料理教室にしたいといつも心がけています。
今日もあなたの食卓が、やさしい時間でありますように。
季節の台所を一緒に楽しみたい方は、料理教室の扉もいつでも開いています。
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