
― 季節の風と、ひとくちの甘さ ―
風が少し冷たくなってきて、
窓を開けると、肌にふれる空気が心地いい午後。
そんな日には、なつめ茶を淹れたくなります。
ポコポコと湯気が立ちのぼる鍋の中、
乾燥したなつめが、ゆっくりとやわらかくなっていく。
やがてほんのり赤茶色の、やさしい香りが台所に広がります。
あま〜いなつめ茶で一息

なつめ茶の味は、ただ甘いだけじゃない。
ほんのりと薬膳のような香りがして、
飲み終えたあとには、体の芯がほっと緩むような余韻があります。
この日も、湯のみを手に持って、窓のそばへ。
木々が揺れる音、遠くの電車の音、
そんな何気ない音のなかで、あま〜いなつめ茶をひとくち。
思わず、ひとりで「ふぅ」と息をついてしまいます。
暮らしのなかにある、小さな儀式
お茶を飲むという行為は、
ほんの数分のことなのに、どこか「暮らしを整える儀式」のようでもあります。
気持ちがざわざわした日も、
少し疲れた午後も、
なつめ茶を淹れるという手順のなかで、
私の心は静かになっていくのです。
煮出す時間も、お茶が冷めるのを待つ時間も、
全部が「自分に立ち返る時間」。

韓国で教わった、なつめの知恵
なつめは、韓国では昔から薬膳茶として親しまれています。
「気を補い、心を落ち着ける」と言われ、
疲れたとき、風邪のひき始め、冷えを感じる日などに、よく飲まれるそうです。
私も韓国で出会ってから、
寒くなる季節には欠かさず煮出すようになりました。
甘さは、砂糖ではなく干しなつめそのものの甘み。
時間をかけて煮出すことで、やさしい味に変わっていきます。

一杯のお茶で、季節を感じる

夏の終わりと秋のはざま、
この涼しい風を感じながら飲むなつめ茶は、
なんだか特別なおいしさがありました。
日々はあわただしく過ぎていくけれど、
こうして立ち止まる時間が、暮らしに深呼吸を与えてくれる気がします。

今日も、台所に火を入れる
ほんの一杯のお茶でも、
自分の手でつくると、やっぱりちがう。
火を入れて、お湯を注いで、香りを感じて。
その一連の流れのなかに、
台所の静かなリズムが戻ってくるように思います。
今日もまた、なつめ茶を煮出して、
自分の中の季節を、そっと確かめてみたくなりました。
