エッセイ– tag –
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僕は、その小さなおにぎりに、勝てない。
その日はなぜか朝5時前に、息子がひとりで着替えを済ませてリビングにやってきた。 いつもは僕や妻に起こされて、メガネをはずしたのび太くんみたいな目で、ぼーっとしたまま夢と現実を行ったり来たりしている彼が、なぜかその日だけはシャキッと起きて、... -
それでも、私が料理を教える理由
3年前、ソウルにいる姉と電話で話した。 私が料理教室をはじめようとしていることにふれたとき、姉は少し心配そうな声で言った。 「でもあなた、料理学校も出てないし、有名な料理家のところでアシスタントもしてないでしょ?それに飲食店で修行した経験も... -
僕たちは、もうすでに持っている
先日から、気楽にやっている家族の交換日記。その中に、笑顔の奥に隠れていた妻の本当の言葉が書かれていた。 「集客がなかなかうまくいかなくて、ママは落ち込んでいます」 今日はどんなことが書いてあるのかな…と気軽に見た僕はちょっとドキッとしてしま... -
出前の夜に囲んだ「団欒」の味を、いま台所から
「オモニ、私たちって家族で中国にいる時にチャンポン食べたことありますか?」 そう聞いたとき、母は即答でした。「ないよ。外食なんかしなかったからね」 その一言で、私の記憶がふっとソウルの夜に飛びました。 私が初めて“ちゃんぽん”を食べたのは、ソ... -
梅干しと記憶と、手仕事の朝に
今日も、起きて窓を開けた。しめじめとした梅雨時期の朝の空気が部屋に入り込む。「梅を干すのは、もう少し先かな」そう思いながら、梅酢を一滴垂らした水を一杯。 ほんのりとした酸味と塩気が、汗をかいた身体にすっと染みわたり、「休む」から「目覚める... -
家族3人で過ごした、たった半日の記録|今しかない時間をちゃんと味わうために
週末、久しぶりに家族3人で過ごす時間ができました。日々の仕事や予定に追われて、意識しないと一緒に出かける時間さえつくれない。そんな我が家にとって、今日は特別な1日になりました。 母は土日にレッスンがあったり、父は手術による仕事の遅れを取り戻... -
エッセイ版|タンスユクと、夏の香り
夏の始まりにぴったりの韓国風酢豚「タンスユク」。台湾パインやピーマンを使った、甘酸っぱくてちょっと懐かしい一皿。味と記憶をめぐる、小さな台所の物語です。 「梅雨も明けたかな?」 そう思うくらい、今年は雨の少ない6月でした。気づけば空気は夏の... -
参鶏湯にはカクテキを。家庭で整う、韓国料理と季節の記憶
キムチといえば白菜。 そんなイメージが強いかもしれませんが、私にとっての原点はカクテキです。参鶏湯とカクテキ、その汁まで使い切る台所の風景—— 今日はそんな、わが家の「季節ごはん」を通じて見えてくる記憶と、家庭料理の力について、少しだけお話... -
チャージャン麺の夜、誰かと食べるごはんが、少しだけ特別に見えた日
最近息子は、週に一度、近所の中学生に勉強を教えてもらっている。その日の夕方も、少し大人っぽくなった声が玄関から聞こえた。 何事にも物怖じしない息子は、誰も遊び相手がいなくて近所をプラプラ歩いていたところに、昨年小学校を卒業した近所の女の子... -
苦味の奥に、まだ知らない味がある。
香りに導かれ、山から海へ 台所で新しい食材と向き合う時間は、少しだけ緊張します。 それは、まだ知らない味との出会いであり、自分自身への問いかけでもあります。 今日は、韓国の海藻「カムテ」との出会いから生まれた、ひとつの試作の記録を綴ります。...