外はじりじりと焼けつくような暑さだった。
朝から気温はぐんぐん上がり、外に出るだけで肌がぴりぴりと反応する。
けれど、その暑さとは違う、台所の「熱さ」が私は好きだ。
窓から入ってくる夏の光を少しだけ取り入れて、程よくクーラーが効いた部屋の中。
静かな台所に、フライパンの火を入れる。
夏の菜葉野菜で、特に好きなのは「ツルムラサキ」だ。
多くの生徒さんは「お浸しにしています」とおっしゃるけれど、私は断然、蒸し焼きにする派。
フライパンにごま油を敷き、温まったら、ツルムラサキを切らずに、美しい姿のまま乗せる。
茎が太くてみずみずしく、肉厚の葉はどこか花束を連想させるほど。
本当に、美しい。
蓋を閉めて、一気に蒸し焼きにする。
ガラスの蓋の中で湯気をまといながら蒸されていく様子を見ていると、
「美味しさが広がっているんだな」
と、幸せな気持ちになる。

火が通ったら蓋を開け、裏返して、愛用の魚醤をひと回しかける。
夏の菜葉には、塩よりも魚醤が合う。
奥行きのある味わいが、素材の旨みを引き出してくれるから。
野菜から出た水分と魚醤が合わさり、強火で一気に焼き上げると、香ばしい香りが立ちのぼる。
これが、2度目の幸せの瞬間。

お気に入りの器に、花束を活けるように盛りつけると、台所が少し華やぐ。
この時期のツルムラサキが、私はやっぱり好きだ。
ジリジリと照りつける夏の太陽の下、カラカラに乾いた表面の土を乗り越えて育ったその姿には、大地の奥にある水分や微生物の豊かな香りを想像させられる。
独特の香りとぬめりのある葉、噛むほどに旨味のある茎。
この野菜は、本当に奥深い。
シンプルな献立。
シンプルな調理。
だからこそ、素材の個性に気づかされる。
「どうやって食べるか」は、「どうやって生きるか」につながる問いだ。
情報があふれる時代だからこそ、シンプルに考えたくなる。
蔓状に伸び、紫の花を咲かせるこの菜葉。
花が咲いたら、次は花器に生けてみよう。
食卓から、今度は「暮らし」に繋がる。
種から花まで。
花から種まで。
その一生を、丸ごと楽しもう。
料理を通じて、季節と心を整えたいあなたへ

わたしたちは、新潟で小さな料理教室を開いています。
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