
蒸し暑い夏の台所で、火を使わずに仕込める料理は、家庭の知恵のかたまりです。 韓国では、そんな夏ならではの「涼しい料理」のひとつとして、さっぱりとした味わいの漬け物=キムチが大切に受け継がれてきました。
その中でも、オイキムチ(水キムチやカクテキと並ぶ、夏の三大キムチのひとつ)は、暑い季節を乗り切るための「台所のしつらえ」のような存在。 この記事では、韓国の漬け物文化の背景とともに、オイキムチが持つ“暮らしを支える知恵”についてお話しします。
▶︎夏のキムチ3選はこちらで詳しく書いています。

韓国で夏に漬けるキムチとは?

キムチといえば「白菜」や「冬の保存食」というイメージが強いですが、実は韓国には四季折々に仕込むキムチがあります。
夏に多く仕込まれるのは、火を使わずに作れる浅漬けタイプのキムチ。きゅうりや大根を使った、発酵のスピードが速いキムチが多く、数日で食べ頃を迎えるのが特徴です。
中でもオイキムチ(きゅうりキムチ)は、冷蔵庫に入れておけば食欲がないときにもさっと取り出して食べられる「夏の常備菜」として、韓国の多くの家庭で親しまれてきました。
火を使わない発酵食の意味

暑い夏に、長く火を使う料理を避けたくなるのは、どこの国の家庭でも同じです。
韓国では、こうした季節の台所環境に合わせて、火を使わずに調理できる発酵食がたくさん育まれてきました。 オイキムチもそのひとつ。
塩もみしたきゅうりに、にんにく・しょうが・ニラ・唐辛子などを混ぜたヤンニョムを詰めて漬けるだけ。 冷蔵庫で数時間〜一晩寝かせることで、ほんのりと発酵が始まり、まろやかな酸味と香りが立ち上がってきます。
火を使わないから、台所に立つ時間も最小限。 それでいて、体の調子を整えてくれる発酵の力が宿っている──。 そんな知恵こそが、韓国家庭料理の魅力のひとつです。
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オイキムチが伝える「季節」と「家族」

きゅうりが出回りはじめると、「そろそろオイキムチを仕込もうかな」と自然に思う。 そういう感覚は、暮らしの中に季節が染み込んでいる証かもしれません。
わたしたちが受け継いできた家庭料理には、ただのレシピではなく、「どの季節に、何を、どう仕込むか」という“時間の感覚”が残っています。
たとえば、母が夏になると新聞紙を広げて、大量のきゅうりに包丁を入れていた風景。 漬け上がったオイキムチを、冷たい器に盛って出してくれた日のこと。
オイキムチには、そうした“手の記憶”と“台所の記憶”が重なっています。 それは、家族を思う気持ちと、季節の移ろいを受け止める感覚が交わる場所なのかもしれません。
我が家の夏の仕込みと冷蔵庫の風景

我が家でも、きゅうりがたくさん採れはじめると、オイキムチを仕込みます。
なるべく火を使わないようにしながら、さっぱり食べられるものを冷蔵庫にそろえておく。 きゅうり、オイキムチ、冷たいスープ、ゆで卵、常備菜のナムル──。
その“冷蔵庫の並び”ができてくると、「ああ、夏が来たな」と感じます。
調味料や乾物をストックしておくことで、暑さで動きたくない日でも、すっと仕込めるのがありがたいところ。
そして、冷蔵庫を開けたときに広がる、オイキムチのやさしい香り。 それはただの料理ではなく、“季節の手ざわり”のように、わたしたちの台所に息づいています。
▶︎ オイキムチの作り方や味の特徴については、こちらの記事でも詳しく紹介しています:

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