ずいきとは? 忘れられそうな食材に、もう一度手を添える

「ずいき」という言葉を聞いたとき、その姿や味を思い出せる方はどれくらいいるでしょうか。
私にとってもそれは、どこか懐かしくて、でも台所ではあまり使わない“縁遠い野菜”でした。
けれど、なぜだかふと気になって、農家のお母さんたちに聞いてみました。
「ずいきって、最近使いますか?」
返ってきたのは、少し寂しい答え
返ってきたのは、こんな答えでした。
「うちは味噌汁に入れるか、酢の物くらいかな」
「おいしさがよくわからないから、うちでは使わないかな…」
ああ、こうやって少しずつ“忘れられていく野菜”もあるのかもしれない。
そんな風に思ったことを、今でも覚えています。
姉のユッケジャンに学んだ、
ずいきの使い方
そんなある日、韓国に住む姉の家を訪れたときのこと。
キッチンでは、ぐつぐつと煮える赤いスープの香りが立ちのぼっていました。
鍋の中には、たっぷりの“ずいき”。
そう、ユッケジャンにずいきを入れていたのです。

ピリ辛のスープに、シャキシャキとした食感が加わり、噛むほどに味がしみ出して、体の芯から温まる。
それは私にとって、ずいきの“新しい顔”との出会いでした。
「乾燥ずいきでも代用できるよ」と姉が言った言葉も、印象的でした。
干しずいきを美味しく戻すには?

乾燥ずいきは、たっぷりの水で4〜5時間かけてゆっくり戻すのがおすすめです。
水気を切ってから軽く茹でれば、アクも抜け、クセのない味に仕上がります。
炒め物にすれば、コリッとした食感がアクセントになり、煮物にすれば、出汁をたっぷり吸ってふっくらと。
味噌汁やスープにもなじみやすく、日々の副菜にぴったりの素材です。
韓国の保存食文化にある
“干す”という知恵

母の台所にも、かつて吊るされた“干しずいき”がありました。
韓国では、季節の恵みをそのまま消費するだけでなく、「干す」「漬ける」「冷凍する」という工夫で、未来の自分や家族へ向けた“保存食”として生かしていく文化があります。
それは単なる保存ではなく、「今あるものを、これからの誰かに手渡す」ための知恵。
乾燥ずいきは、そんな知恵の象徴のように思えます。
何を隠そう、私の母は、干し野菜の名人。
来日した時も、老いた体に無理をして、たくさんの干し野菜を抱えて持ってきてくれました。

家庭でできる、ずいきの保存方法
- 生のずいきはアクが強いため、皮をむいて下茹で後に冷蔵保存(2〜3日が目安)
- 干しずいきは風通しの良い場所で完全乾燥させ、密閉容器で常温保存(半年〜1年)
- 戻す際は水に4〜5時間浸け、さっと茹でてから調理
忘れられそうな食材に、
もう一度目を向けてみる

ずいきは、地味で手間がかかる──。
そんなイメージがあるかもしれません。
けれど本当は、スープにも炒め物にも変身できる、
とても可能性のある素材です。
姉のユッケジャンが教えてくれました。
「誰かのために食卓を整えること」は、想像と愛の結晶だということを。
ずいきをもっと楽しむために
乾燥食材の使い方を、もっと深く知りたい方には、わたしたちのオンライン講座もおすすめです。
▶ 麻辣講座|香りを立てる乾物の力

ずいきと共に受け継ぐもの

食材には、「味」だけでなく「記憶」や「つながり」が詰まっています。
ずいきを干して、戻して、
家族のためにゆっくりと煮込む。
そんな静かな時間の中で、私は今日も
「料理は文化であり、思いやりの形なのだ」と実感しています。
忘れられないように。
ずっと、誰かの台所で受け継がれていくように。